<面接で必ず聞かれる質問>
障害者枠での面接を受けた事がある人なら、きっと面接官からこういった質問をされた経験があると思います。
「働く上で何か配慮してほしいことはありますか。」
当然面接官は、今面接している人が組織にとって必要な人材かどうかを判断するため、様々な質問をしてきます。が、そのやりとりの中で「アスペルガー症候群とはどういう障害ですか?」「統合失調症とは具体的にどういった病気なのですか?」、このような障害名や診断名についてじっくり質問してくる面接官はあまりいません。逆に、冒頭で書いたように、「どういった配慮が必要ですか?」といった質問は必ずしてきます。
<なぜ企業は知りたいのか>
配慮を聞かれる、という事は、つまりは「あなたが働く上で障害になっている事は何であり」、「あなたが安定・安心して働くために私たちはどういう事をすることができるのか」と聞かれている、と言い換える事ができます。
でも、なぜ企業はそんな事を聞くのでしょうか。
障害のあるなしに関わらず企業は当然労働者に成果を求めます。しかし、その人が能力を発揮する際、何かしらの障害により支障となる事情があるのであれば、企業はそれを配慮する義務があります。配慮を提供した結果として、みなさんはしっかりと労働力を提供することができる。その関係を企業は求めているのです。
つまり、みなさんが持っている能力を十分発揮してもらいたい、そして働き続けてもらいたい、と考えているからこそ企業はみなさんが必要な配慮を知りたいのです。
<配慮を伝える為には自分自身を知る必要がある>
でもこの「配慮」と言う言葉、なんだか漠然としています。具体的にどういう事を言っているのでしょうか。
例えば、聴覚障害の人であれば、業務指示などは筆談やメール等で行う。肢体不自由な人であれば、机の高さを調節したり、スロープや手すりの設置を進める。こういった配慮が挙げられます。
では、発達障害やうつ病、統合失調症といった人達は?
「感覚過敏を和らげるために業務中に耳栓を使用したい」 、「新しい環境に対する不安や緊張が強く、疲労も強いので最初は勤務時間を短くしてもらいたい」。これらは精神障害の人が求める配慮の一例ですが、当然、すべての精神障害の人に当てはまるものではありません。
実は、精神障害者の雇用に対し企業側からは「どういった配慮をすればいいかよくわからない」といった声が少なからず聞かれます。その理由は精神障害者は外見からはその障害が分かりにくいというのに関係します。本人からの発信がなければ雇用側も分からないのです。精神障害者の雇用数はここ数年で大きく増加していますが、社会全体が理解を進めていくのはまだまだこれからです。だからこそ、精神障害をもつ人が企業側に自分の配慮をきちんと伝える事はとても重要になってきます。
障害に対する配慮といっても、個々の障害の状態に応じて提供されるものですので、多様性かつ個別性が高いものです。したがって、「この障害だからこの配慮」というような画一的なものはありません。だからこそ、相手に配慮を求めるには、まず自分が自分自身の事をちゃんとわかっていなければいけません。
「自分はどれくらいの時間働ける体力があるのか」「自分にとってストレスを感じる場面はどういう時か」等々、こういった自己分析や自己理解は、就労活動を行う前に必ずしておかなければいけない準備の一つと考えてください。
<配慮と工夫>
配慮を相手に伝えるには、まずは自分を知る事が大切だと述べました。実際、さらぽれでは、業務に関する訓練だけでなく、こういった自己分析も訓練生と職員が、面談をしながら一緒に行っていきます。それは、面接の準備で必要だからという理由だけでなく、就労後、働き続ける上でも必要となる大切な事だからです。業務能力は、業務の中で伸ばしていくことができます。しかし、働きだしたら自己分析に充てられる時間はそうそうありません。だからこそ、さらぽれでの訓練期間をつかって、自分自身をしっかりと理解してもらいます。
最後に、工夫の話もしておきます。障害に対しすべてが配慮になるかというとそうではありません。場合によっては工夫によって自分ひとりで対応できる事もあります。例えば、最初は「複数の業務を管理できないので指示は一つずつ出してもらいたい」といっていた人が、一日のスケジュール表と付箋を用いて自分でスケジュール管理できるようになったという事もありました。これらは、「まずはやってみる」事から始まっています。さらぽれでも「ただ経験していなかっただけ」という訓練生が少なくないなと感じます。さらぽれで訓練生に色んな事に挑戦してもらうのはそういった理由があります。
自分の持っている力を最大限発揮しながら働き続けるためにも、ぜひ自分に制限をつけず、色んな事に挑戦しながら自己理解を深めていってもらいたいと思います。