できないこととできること
発達障害の人たちの就労支援でよく話をするテーマが「自分の取り扱い説明書」を持とうということです。「なんだ、まるで家電みたいじゃない?」と思う人がいるかも知れません。でもこれは自分を知り、知ってもらうための例えです。それ以外に他意はありませんのでご理解いただければ有難いです。
たまたま家電という話が出たので家電をそのまま例にしてお話を進めていきましょう。日本の電化製品はとても品質がいいと言われています。ただそれでもできることとできないことがあります。いくらいい洗濯機でも炊飯器のようにご飯を炊くことはできません。最近はパソコンなどのバージョンアップなど進化は目まぐるしいですが、お部屋の掃除はパソコンではなく掃除機を使うしかありません。
「当たりまえじゃないの」と思うでしょう。家電だからみんな理解できています。でも人間はちがいます。できることとできないことがあっても理解してもらえない場合があります。
「長所と欠点」とはちがう視点
できることとできないことを「数学は苦手だけれど国語は得意」や「性格は短気だけど正義感が強い」といった得手不得手や長所短所といった視点で人を理解する習慣を私たちは身につけてきました。またそれは人の良いところを見つけていくという良好な人間関係をつくっていく上でも大事だと思います。
ただし発達障害の場合は、ちがいます。できることとできないことがはっきりし、できないことを克服していくことはとても困難なのです。
社会には「苦手なことに挑戦していく」ことは美徳であるいう見方があります。
事実、そのことで成功してした人も多くいるでしょう。けれど発達障害を持つ人に同じことを要求しても苦しめていくだけです。もちろん発達障害でない人も同じことが言えるかも知れません。ただこの障害を持つ人は顕著でだからこそ障害になっているのです。
取扱い説明書を自分も理解し、職場に伝えよう
たとえば一つのことに集中してその分野に秀でていくことで会社や社会に大きな成果を出していく発達障害の人もいます。その反面、誰もができる簡単なことができないために「何もできない」というラベルを貼られ、やがて会社を辞めざるを得なくなる場合もあります。悲劇であるのは本人も「できないこととできること」があることを認識していないので、人から叱咤されることで「すべてができない」と思ってしまうことです。
家電の例えに戻りましょう。炊飯器に洗濯機と同じことはできません。それと同じように自分自身ができることとできないことについての「自分の取り扱い説明書」」しっかり認識し、職場にもそれを伝えていく。それが働く上で大切なことです。